2014年02月24日

黄金楽土・平泉〜第22回 貞任苦悩

安倍氏が立てこもる厨川柵は東砦、南砦、西砦、中央砦の4つの郭に分かれており、それぞれが深い空堀で仕切られているものの、東砦が朝廷軍の火攻めによって陥落。その火は南砦にまで届きつつあり、南砦を守っている貞任は兵に指示を出して、防戦しつつ必死に消火作業に当たっていました。

そこへ東砦を焼けだされた宗任の姿が現れました。鎧はボロボロ、衣服はススだらけ。まるで雑兵のような体裁に誰も宗任とは気づきませんでした。

「次郎兄(貞任)......」

宗任は貞任の姿を見つけ、声をかけましたが、貞任でさえ、一見しただけでは宗任とは分からないほどだったのです。

「三郎(宗任)。その姿は」

貞任は宗任の側に駆け寄って肩をしっかり掴みました。

「東砦が落ちましてございます。申し訳ございません」

宗任は貞任と目を合わせることなく、吐き捨てるように言いました。

「なんの。懸念致すな三郎。この厨川は4つの郭から成り立っておる。1つの砦が落ちたところでビクともせんわ」

貞任は気落ちした宗任をしっかり支えながら、元気づけるように言いました。
事実。東、西、南の砦が落ちない限り、本丸の役割を果たす中央砦を攻めることはできません。
中央砦の北は小高い丘と断崖絶壁のため、天然の要害となっており、鉄壁の守りを誇っていました。

「しかし次郎兄。六郎(重任)が.....六郎が柵を出て出陣してしまったのです 」
「なんだって?」


これは貞任も予想外のことでした。
厨川柵の北東を守っている嫗戸柵(うばとさく)は、貞任、宗任の弟である重任によって守られており、東砦を攻める朝廷軍を牽制する役割を持っていました。

それでも「絶対に砦からは出てはならぬ」というのが貞任の厳命でした。あと2ヶ月篭城すれば冬が到来する。そうなれば寒さに弱い朝廷軍は撤退を余儀なくされる。その時こそ勝機。だからこそ持久篭城戦こそ最善の策だったのです。

しかし東砦が焼け落ちるのを見た重任は宗任を助けるべく、砦を出て朝廷軍に戦を仕掛けました。重任の兵はわずか500余り東砦の朝廷軍はおよそ2000。500兵では一度砦を出れば回りを取り囲まれて挟撃されてしまうのがオチなことは、貞任にはすぐに察しがつきました。

「なんということだ......」

そして貞任はもうひとつ、忘れていたことを思い出しました。

「おい三郎。経清は、経清はどうした?東砦の加勢に向かったはずだが」

「大夫兄(経清)は、負傷した我が手の者を指揮して、中央砦に戻られました。某が南砦に参ったのは、東砦陥落と六郎の勝手な出兵を次郎兄に報告せよとの、大夫兄の命令でございました」

(さすがは経清。抜かりはないわ)

宗任の言葉を聞いて、貞任はニヤリと笑いました。
しかしその時、南砦を攻めている朝廷軍に動きが見られました。南砦から見下ろして左右2つの大隊のうち、左の大隊が東砦の方に進軍していくのが見えたのです。
重任に押され気味の清原武貞を助けるため、源義家が橘貞頼を援軍に差し向けた影響でした。

これは、今の今まで厨川柵を取り囲んでいた朝廷軍の囲みが揺るまった瞬間でした。
そしてこの時に、南砦の門が開き、喚声と共に数十騎の軍勢が門の外に討って出ていったのです。

「な...... ?」

貞任は我が目を疑いました。重任に続き、またしても勝手な行動。そして今度は自らの管理下にある南砦からの勝手な出兵。これは棟梁としての貞任への最大の侮辱でした。

「誰じゃ!勝手に兵を出した阿呆は!」

貞任は怒りのあまり、砦の木杭に自らの鉄拳を力いっぱい打ち付けていました。
門から出兵した数十騎と歩兵合わせて約200兵。貞任はその指揮官をなんとかみつけようと目を凝らしましたが、それが分かった瞬間。二度目の強烈な衝撃を受けるのでした。

「あ......あ......あれは......」

貞任のその後の言葉は声にならず、口をパクパクさせていました。
貞任の姿を訝しんだ宗任も砦の物見台に立ち、そこで見たものは。

「大夫兄.....!」

南砦から出兵した200兵は経清の率いる手勢でした。
この戦いが始まる十二年前、経清が朝廷から安倍氏に味方する際、持っていた手勢は800近くありました。それが度重なる戦いで減り続け、今は200弱になっていました。つまり経清の持つ全兵力を出したということは、戻る気はないという死のへ出兵でした。

「なぜだ!なぜ、あいつはあんなことを!」

貞任は両手に拳を作り、力一杯地面に叩き付けました。

「たった200兵で何が出来ると......」

貞任の苦しみながらの発言に、宗任はハッと気づくところがありました。

「そういえば、大夫兄が言っていた。六郎をみすみす死なせるようなことはしないと」

それを聞いた貞任は、次の瞬間、反射的に宗任の左頬を鉄拳で殴り飛ばしていました。

「馬鹿者!なぜそれを早く言わんか!。知っていたら......知っていたら、みすみす行かせなかったものを......」

「次郎兄......」

「自分のバカ弟がしでかした尻拭いを、経清にさせるわけにはいかんだろうが!」

と言いながら、貞任はさらにもう一発、宗任の左頬を張り倒していました。

南砦を出た経清率いる総勢200兵の軍勢は、南砦から東砦へ加勢に向かう橘貞頼軍2000兵の後方から追い打ちをかけました。柵内から討って出る予想を全くしていなかった橘軍は不意をつかれ、その隊列を見事に乱れさせ、橘軍を混乱状態に陥らせることに成功しました。

(行ける。やれるぞ)

橘軍が混乱している最中こそ、好機。そう考えた経清は、橘軍には目もくれず、橘軍を追い抜き、重任と戦っている清原武貞の軍勢の後方に接触しつつありました。

(つづく)
posted by さんたま at 01:39| Comment(0) | 黄金楽土・平泉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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