2013年12月24日

黄金楽土・平泉〜第20回 経清の出陣

朝廷軍の火計により厨川柵の東砦が陥落。砦を守っていた安倍宗任は安倍貞任が守る南砦に移り、宗任の郎党は藤原経清と共に中央砦に撤退しました。その際、東砦と南砦、そして中央砦を繋ぐ桟橋を切断しました。陥落した東砦から朝廷軍が侵入しても、東砦と南砦、中央砦の間には深い空堀があり、容易に攻め込めぬようにしたのです。

宗任の郎党と共に中央砦に戻った経清は、宗任の郎党たちに砦の警戒を指示すると、すぐさま有加と清太郎のいる部屋に足を運びました。有加は、突然戻って来た夫の顔色が悲壮感に満ちているのを直感で感じました。

「戦の状況は」

有加が経清に聞きました。

「東砦が落ちた。だが火計のため、火が消えねば朝廷軍も攻められん。それにこの中央砦を繋ぐ桟橋も切ってきたから、東砦は今や陸の孤島だ。」

「それは上々」
有加は顔色ひとつ変えませんでした。

「それよりもマズいことになった」

経清は嫗戸柵の安倍重任が持ち場を勝手に離れて、東砦の外に攻め寄せている朝廷軍と小競り合いを起こしていることを話すと、有加の顔もみるみる血の気が引いていきました。

「六郎(重任)が。なぜ......」

「三郎(宗任)殿の砦が火攻めに会っているのを見逃せなかったのだろうが、これでは次郎(貞任)の策が破れてしまう。なんとしても六郎殿を柵に戻さねば」


「まさか、御出陣を?」
有加が驚きの表情で経清をみつめました。

「次郎は安倍の棟梁であり総大将じゃ。軽々しく動くことは出来ぬ。また三郎ら安倍の者たちでは野戦の経験は浅く、あの大軍の中に身を投じれば、よほどの戦上手でなければ下手すれば死ぬ」

「かと言って、なぜ、あなた様が行かねばならないのです」
有加は少々語気が強くなっていました。

「俺はそなたを娶ったとはいえ、亡き義父上、安倍頼時の婿にすぎぬ。言うたであろう。俺の使命は安倍一族を守ることだと。安倍の者を、義父上の子供達、そなたの兄弟達を死なせるわけにはいかぬのだ」

「承服できませぬ」
有加は経清に背を向けて言いました。

「無理もない。そなたに理解してくれとは言わぬ」
経清は鎧を纏い、戦支度を始めていました。

「勝手な」
有加が再び経清に向き直って言いました。

「何?」

「あなた様は清太郎を父亡し子にされるおつもりか!」
有加が叫びました。その眼にはポツポツと涙がこぼれていました。

「有加」
経清は有加を抱き寄せると諭すように言いました。

「よいか。安倍を守るということは、そなたや次郎、三郎らそなたの兄弟は元より、清太郎を守ることにも繋がるのじゃ。それに俺は朝廷軍を牽制して六郎殿に柵に戻る隙を作るだけじゃ。用が済んだらまた柵に戻って参る」

「あの大勢の朝廷の軍勢に対し、あなた様の手勢はおよそ300。この柵を出たら、とても無事にお帰りになれるとは思えませぬ」
有加は涙声で訴えました。経清は有加を安心させるために嘯いたが、有加には通じませんでした。

「もし、万が一、俺がここに戻らなんだら、そなたに頼みたいことがある」

「聞きとうござりませぬ!」

有加は経清の手を振りほどき、膝を床に付き、耳を塞ぎました。

「では、勝手に言うぞ。もし俺が戻らなんだら、そなたは清太郎の身を立てることのみ考えよ。決して俺の後を追ってはならぬ」

「酷い仰せじゃ。この有加に生き恥を晒せと」

「そうじゃ。どんなに醜くとも、どんなに蔑まされようとも、決して安倍の血筋を絶やしてはならぬ。清太郎は藤原と安倍の両方の血を分けた俺の希望なのじゃ。もし俺を少しでも想う気持ちがあるのなら、清太郎の身を立てることを考えて生き抜くのじゃ」

「勝手すぎまする」
有加は決して承服しません。

「そうか」
経清は有加の態度に怒り似たものを感じましたが、今はいたずらに時を潰えてはならないことを思い直すと、刀を手に取り、部屋の戸を開けて

「では、行って参る」

と言い残して部屋戸を閉めました。
有加は目から滝のような涙を流し、その場に崩れ落ちました。

中央砦には経清の直参兵300が砦の守りを固めておりました。この者たちは、経清が陸奥守源頼義を裏切って安倍に投降した際、一緒に同行した300兵でした。つまり経清と苦楽を共にしてきた同志とも言える者共でした。

経清の一声で300兵が南砦の一階、柵門付近に集められました。
「我らは只今より柵を出、下手の朝廷軍を抜いて、嫗戸柵を出た六郎殿の軍と合流する。従って、無用な戦いは出来るだけ避け、六郎殿と合流する事を第一に考えよ」

経清の直参兵300は出陣の意図を把握すると「おう!」というかけ声を上げました。

「いざ!」

経清の直参部隊が重任を救うため、厨川柵南砦の柵門から討って出ました。南砦の敵は吉彦秀武率いる朝廷軍およそ3000兵。十倍の敵兵力を相手にどこまで戦い抜けられるか。経清にも全く検討がつきませんでした。

(つづく)
posted by さんたま at 00:36| Comment(0) | 黄金楽土・平泉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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