2013年12月16日

黄金楽土・平泉〜第19回 重任の暴走

朝廷軍の火計と東南からの強風により、空堀に積み上げられた萱の炎は東砦の板壁に取り付くだけでなく、その火の粉が東砦内の建物にも引火していました。
さらに朝廷軍は東の軍勢をやや南東寄りにに移動させ、そこから追加の火矢を浴びせます。

通常であれば東砦まで届きませんが、風が味方をしているため、殆どの矢が板壁に突き刺さり、それが炎に勢いを与えていました。

経清が東砦に到着した頃には、炎だけでなく濃い煙が砦内を充満し、数十人の兵が窒息して死んでいました。
経清は東砦の庫裏にいた女子供を中央砦に避難させつつ、宗任を探しました。

その頃、宗任は東砦の柵門付近で兵達と揉めていました。宗任は馬に跨がり、外に討って出ようとするのを兵達が止めていました。それを見た経清は慌てて、東砦の柵門に向かうと

「三郎(宗任)殿、それはなんのマネじゃ?」

と声をかけました。宗任が経清の姿を認めると

「大夫兄(経清)!。この東砦はもうダメじゃ。せめて、せめてあの南東にいる朝廷軍に一矢報いたい。だから出馬を許してくれ!」

と経清の許しを得ようとするが、

「ならん!柵より討って出て野戦すれば、数で劣る我らは朝廷軍には勝てんこの柵に籠り、この柵を維持することこそ、五分五分の戦さなのじゃ。決して柵より出てはならん!」

と宗任を押しとどめました。

「しかし、これでは、次郎兄(貞任)に申し訳が立たぬ.....」
と歯ぎしりして悔しがる宗任。

「確かに東砦はもう火の海じゃ。これでは火を消すこともままならん。じゃが、砦の主として三郎殿は成すべきことをしておらん」

宗任は経清の言わんとしてることはわからなかった。
経清は宗任が尋ねる前に答えを言った。
「この火の勢いを東砦のみに留めることじゃ。このままでは他の砦に燃え広がってしまう。中央砦と南砦を繋ぐ橋を切り落とし、他の砦への類焼を防ぐことこそ砦の主のおぬししかできん役目ぞ。それを放置して柵門より討って出るとは愚策も愚策じゃ!」

「うう。。。」

宗任はさすがに頭垂れた。

「分かったなら、はよう兵や女子供を東砦から逃がし、この砦との繋ぎを断つのじゃ」

経清は頭を垂れている宗任に代わって、兵たちに下知をして砦から避難させました。
ところが、物見の台に立っている兵が信じられないことを言ったのです。

「経清様!南東の朝廷軍と何者かが戦っておりますぞ!」
「なんだと......?」

経清は我が耳を疑いました。少なくとも厨川柵から南東の朝廷軍を攻められるところは、この東砦の柵門しかありません。じゃあ他の勢力の援軍かと言えば、朝廷軍にケンカ売るような勢力が他にあるとも思えませんでした。

「あれは、もしかして六郎(重任)様の軍勢ではなかろうか?」

物見台の兵がさらに言葉を続け、その言葉で経清は頭をガーンと割られたような衝撃を受けました。
貞任の弟の一人である重任には、厨川柵の北東に隣接する嫗戸柵(うばとのさく)を1000の兵で守らせていました。南東の朝廷軍の位置は嫗戸柵の南にあたり、敵の目は東砦にしか向かっていないので、重任が「今なら勝てる!」と思ったのも無理はありませんでした。

ただ、これは朝廷軍から見れば飛んで火に入る夏の虫にしかなりませんでした。
南東で野戦が起きたことは南砦を攻める南の朝廷軍からも確認でき、いくばくか南東の軍勢に加勢に回り始めていたのです。

(あの単純男め.....)

経清は重任の勝手な行動を到底許せるものではありませんでした。朝廷軍を倒すには持久戦しかない、これは重任にも伝えられていた安倍の戦術の共通認識でした。それゆえ、討って出るようなことは絶対にするなと貞任も言っていたのです。
にも関わらず、重任は討って出てしまいました。

「大夫兄。今なら六郎の助勢に入れます」

宗任が尚も経清に出馬の許可を求めてきました。

「何度言うたら分かるのか。ならんと言うたらならんのじゃ」
「でも、しかし」

宗任は「重任を助けなくていいのか」という眼で経清を見ました。
その眼に答えるように

「六郎殿は、東砦を攻める北東の朝廷軍を脇より攻め、この砦を救おうとしたのだろう。助けにきたものに対し、それをさらに助けにいくのは道理に合わん。それに」

「それに?」

「柵から討って出るなというのは次郎の厳命だ。それを六郎殿は破ったのだ」

経清が吐き捨てるように言いました。経清の手は握り拳に固められており、その手はブルブルと震えていました。

「だがな。六郎殿を無駄死させるわけにはいかん。三郎殿。おぬしはこれより次郎の元へ参られよ。皆の者は中央砦に移り、守りを固めるのじゃ。よいな」

そう言うと、経清は振り返って中央砦に向かって走りました。

(安倍の人間をむざむざ死なせてたまるか......!)

経清の心の中にはある一大決心が生まれつつありました。

(つづく)
posted by さんたま at 00:45| Comment(0) | 黄金楽土・平泉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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